
手羽イチロウ氏
武蔵野美術大学造形学部
彫刻学科卒
企画部企画広報課在職
福岡県出身
米山建壱氏
多摩美術大学美術学部
芸術学科卒
企画広報部企画課在職
静岡県出身
司会/さんぽう
さんぽう それぞれの大学の特徴はOBをみればわかるといいますが。
手羽 1929年に創立された帝国美術学校から昭和10 年に分かれてできたのが、後の多摩美術大学・武蔵野美術大学です。もともとはムサビとタマビは同じ学校だったんですよ。
なので、体に流れる「血」は同じものを感じますが、個性はやはり違いますね。
米山 東横沿線の上野毛への校舎移転構想をめぐって帝国美術学校が分裂し、多摩帝国美術学校ができるわけです。タマビは移転促進派ということです。昔から自由闊達、進歩的と言われている背景にはそういうことがあるんでしょうね。
手羽 タマビのキャッチコピーは「自由と意力」「freedom&will」ですよね。「なるほどなー」と感じる(笑)
米山 UIを決める時に言葉も必要で、初代校長の杉浦先生※1の言葉から作ったんですよ。
手羽 ムサビの建学の理念は「教養を有する美術家の養成」なんですよ。常に「教養を有する美術家養成が大事だ!」とは意識していないけれど、知らず知らずのうちに残っているDNAみたいなものは感じています。
米山 すごく個人的な見方ですが、ムサビはどんな人も何か優しく包み込んでくれる感じがしますね。
とはいえ、ムサビ、タマビ両校の多くの卒業生が美術・デザインの業界を牽引しています。確かにこの分野は学歴とかあまり関係ないと思うけど、両校の卒業生はメジャーな人が多いから、その人たちをカテゴリーにして何となくタマビタイプ、ムザビタイプみたいなことを言う人がいますよね。受験の時からそういうことを口にする受験生もいますし。
手羽 タマビだとスマップなどミュージシャンのアートワーク等で有名な佐藤可士和※2という有名なトップデザイナーがいます。でも、「高校生が知っているムサビの著名人」といわれると、漫画家でタレントのみうらじゅん※3やイラストレーターであり、作家でもあるリリー・フランキー※4ですもん(笑)
専門外のいろんなことに興味を持ち、ひとつのカテゴリではくくれないタイプが確かにムサビには多い気はしますが、それは「名前が表に出てるかどうか」「高校生が興味を持っている分野か」であって、実際はインハウスデザイナー、つまり企業で働いてるデザイナーの方が割合は多いんですよ。そこにはムサビもタマビもほとんど関係ありません。 なので、個人的には「ムサビタイプはこんな感じ」とは言えますが、「そういう人がムサビに受かりやすい」というわけではないです。血液型性格診断みたいなもの(笑)
さんぽう そのタイプというのは、高校生でもわかりますか。
米山 どうでしょうか?卒業生の活躍や卒業制作、また入試なんかからそういうことを察する高校生もいるかもしれませんね。僕らが最近強く押し出しているのは、どういう仲間と学ぶかなんです。だからぜひオープンキャンパスに来てほしいんですよね。学生をみてほしいんです。大学の空気を施設・設備とかだけでなく、学生がどんな表情をしながら、どういう姿勢で学んでいるか、そこから大学の雰囲気を感じてほしい。きっとそこに言葉にできないタイプが見えてくるんだと思いますよ。我々広報の人間がタマビはこうで、ムサビはこうでと決めつけない方がいいような気がします。
※1 杉浦先生
杉浦非水(1876~1965)。近代日本を代表するグラフィックデザイナー。東京美術大学在学中に洋画家の黒田清輝と出会い、図案家に転向する。三越呉服店等でグラフィックデザイナーとして活躍した後、1929年帝国美術大学(現武蔵野美術大学)図案科長となる。1935年多摩帝国美術大学(現多摩美術大学)の創設に参加し、校長に就任。日本のグラフィックデザインの基礎を築いた人物の一人である。
※2 佐藤可士和
今日本で最も注目されているグラフィックデザイナー/クリエイティブディレクター/アートディレクター。
多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン科を卒業後、博報堂でアートディレクターとして活躍した後、2000年に独立、クリエイティブスタジオ「株式会社サムライ」を設立。ミュージシャンのアートワークやコンセプトケータイのプロダクトデザイン、企業のCI、店舗の空間デザイン、国立新美術館をはじめとする団体・企業のシンボルマークデザイン等、その業績は多方面におよぶ。
※3 みうらじゅん
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。在学中からコピーライターの糸井重里の事務所で働いていた縁で、イラストレーターとしての仕事をはじめる。その後、マンガ家としてデビュー。マンガ家、イラストレーター、エッセイスト、小説家、ミュージシャン、ラジオDJ等々、幅広い分野で活躍する。流行語大賞を受賞した「マイブーム」の生みの親として有名。
※4 リリー・フランキー
武蔵野美術大学卒業。イラストレーター、エッセイスト、小説家、絵本作家、アートディレクター、ミュージシャン等として、多方面で活躍。小説『東京タワー』の大ヒットや、絵本作品「おでんくん」が有名だが、イラスト・グラフィックデザインの分野でも評価が高い。
さんぽう クリエイターにどうしても必要な能力って何ですか?こういう人は伸びるというものはありますか。
米山 絵がうまいとか、そういう技術力だけではないと思いますよ。人間性などあらゆる能力が必要だと思います。何事に対しても、自分のキャパシティーを広げ、そして深めていくことを苦にしない人は強いですよね。
手羽 そのことの関連性でいうと、深澤直人(多摩美術大学プロダクトデザイン科卒・現武蔵野美術大学基礎デザイン学科教授)が、1枚しか焼けないトースターをデザインしたんです。普通トースターって2枚焼けるものでしょ?1枚しか焼けないと不便じゃないかと誰もが最初は感じます。でも、トーストって1 枚ずつ食べますよね。一人暮らしの場合だと、1枚しか焼けない方が常に温かいものを食べられるんです。そして、二人暮らしの場合は、1枚のパンを「先にどうぞ」と譲ったり、半分に切って分け合います。そこには会話、愛情や共有が生まれる訳です。単におしゃれなものを作るのではなく、もう一度情報を整理し、そこに何が生まれるのかを考えるのがデザイナーであり、世の中を良くしたり、社会をハッピーにできることを考え実行するのがクリエイターでありデザイナーなんです。いかに世の中を変えることができるかってことが大切なんだと思います。
さんぽう 生活を変えるというかデザインは人も変えるのですね。
手羽 単に絵を描くのが「デザイン」という気持ちでいると、そこで
終わってしまいます。例えば、「●月●日に文化祭をやりましょう」という決定があって、次にお客さんを呼ぶにはどうしたらいいかを考え、そのためには広報活動が必要で、一番安上がりな広報活動を考えると、「あ、ポスターを作るか」となって、みんなポスターを作っているわけです。最初に企画・計画があって、それを成立させるためのひとつの手段があくまでも「ポスター」なんですよ。
高校生はそこが見えてなくて、「美大に行けばおしゃれなポスターが描けるようになる」と思ってしまうんですが、企画や計画を成功させるには、もちろんおしゃれなポスターも必要だけど、クリエイターやデザイナーには論理的な思考能力やセンスが必要だったりもするんです。ムサビ・タマビの一番の共通点は社会を引っ張っていきたいっていう気持ちはもちろん、社会を変えたいっていう気持ちだと思います。
米山 高校生にはもっといろいろなことに面白がってほしい。将来クリエイターになるんですよ。ポジティブに生きてほしいです。
今、大学側もいろいろ工夫しています。学科・専攻によって取り組みも違うからここでは細かく言えないけど、どういう人材を輩出するかを徹底的に考えています。
ただ、最近よく聞く話ですが、課題だけやっていればいいみたいな学生も多いようです。受験勉強だけしていればいいみたいな感じでしょうか?確かに課題の密度も濃いし、消化するのが精一杯という言い方もあるかもしれませんが、心の中から沸き起こる何かを感じて、時間がないけど・・何かする、みたいなものもあってほしいです。学校に言われたことだけではつまらないというポジティブなへそ曲がり。そういう楽しさを10 代のとき見つければ、20 代、30 代の制作現場でもずっと生き続けると思うんです。そういうことも学生時代の醍醐味ですよね。ちなみにグラフィックデザイン学科の新入生が、課題が大変で5月病になる暇がないと・・言っていました。大変なのはわかります(笑)。