連載!ムサビ×タマビ対談 第3回

手羽イチロウ氏プロフィール

手羽イチロウ氏

武蔵野美術大学造形学部
彫刻学科卒
企画部企画広報課在職
福岡県出身

米山ケンイチ氏プロフィール

米山建壱氏

多摩美術大学美術学部
芸術学科卒
企画広報部企画課在職
静岡県出身


司会/さんぽう

第3回:美大に入るには?美大の入試!

実技試験は「うまい」
「へた」よりも
大事なものがある

さんぽう タマビ・ムサビの実技試験は難しいというイメージがあるようですが。

米山 入試は将来性や可能性をみているんです。大学が財産としてもっている過去の歴史から、どのような出題で、どのような評価で、さらにどういう学生が育っていったかを参考にして、今の入試を実施しています。当然、いつでも社会性は重

要です。デザイナー、アーティストはそういうことにも敏感であってほしいですから。
タマビの入試が難しいと思われるのは、基本的にテスト範囲を設けていないことに要因があるかと思います。むしろデザイナー、アーティストになろうとする人材に対して、これだけやっておけばいいというような興味を狭めてしまう問いでは、受験生の成長を妨げてしまうと思っています。入試を理解する時、答えが決まっているドリル的なものと解釈するのではなく、自分らしさを出すための作品発表の場ととらえてほしいのです。だから受験期に取り組んでいることが将来にいきるわけです。

さんぽう それはなぜ実技試験をやるかにもつながってきますね。

手羽 実は実技試験には「私たちの大学はこういう人が欲しいんです」というメッセージが含まれているんですよ。「あなたはこれをどう感じましたか?」と質問しているのが実技試験問題。それを受験生が「私はこういう風に感じました」と表現したのが実技の回答用紙。「ほほー。あなたは私たちが目指している、欲しているタイプに近いから点を高くあげましょう。そういう人のための授業を準備してますから」というのが採点であり、結果が合格です。だから、実技試験の内容を見ると、大学であり、その学科のポリシーや考えが見えてきます。よく「ムサビの視覚伝達デザイン学科とタマビのグラフィックデザイン学科の違いは何ですか?」と聞かれるんですが、答えははっきりしていて「実技試験」が違う(笑)。
志願者は、「うまい」「へた」を見るために実技試験をやっていると思っているんですが、実は違うんです。

米山 確かに「うまい」は相手に伝わりやすくもなるし、一生懸命励めばその努力も報われますから、そうやって判断する受験生が多いのも事実だと思うんです。しかしそれだけではないんですよね。よく聞かれるグラフィックデザイン学科の入試では、例えば、鉛筆デッサンはここ十数年間ずっと想定デッサンを課しています。条件はありますが、現物のモチーフは与えられません。想定として出題されるモノやコトを自分の中に取り込んで、第三者に何を伝えるか、どうやって伝

えるかを考え、そのモノやコトを頭の中で再構築し、表現するという問題です。ちなみに試験時間も5時間とデザイン系学科ではタマビの中でも長いんです。しっかりと考え、そしてしっかりと描いてほしいと考えているからです。注意してほしいことは、前提としてデザイナーの気質が問われているわけで、奇をてらうような独りよがりな考え方や表現では、残念ながら作品への共感がされずらく評価も低くなってしまうんです。

さんぽう 入試は受験生に対するメッセージみたいな?

米山 そうです。強いメッセージがあります。

手羽 たとえば、ムサビのデザイン情報学科等では数学入試をやっています。選択によっては国語と英語と数学で受験できる学科がムサビにはいくつかあるんです。数学的な考え方、情報を整理してまとめて理論的に物事を積み上げていく論理的発想力を持っている人もデザイナーには必要だからなんですね。一方で視覚伝達デザイン学科の場合だと、受験生に必ずモチーフを与えて「それで何を感じましたか?」を問う試験が多いです。絵がうまいかどうかも必要ですけど、与えられたモチーフから何を感じたかが大事であり、これはデザイナーに求めることと一緒なんですよ。単に見たままを描くのではなく、何を感じそれをどう表現したか、を視覚伝達デザイン学科では重要視してるように私は感じています。

どうしても
予備校いかなきゃダメ?

さんぽう 実際、実技試験であきらめちゃう子もいるわけじゃないですか。美術予備校に行かなくても受かるものなんでしょうか?予備校の位置づけはどうなっているんでしょう?

米山 タマビは入学者のうち95%は予備校に通っていると思います。でも何人かは予備校に行っていない人もいますよ。実技の基礎を自分だけでというのは難しいかもしれません。そういう基礎を学ぶ環境は必要です。僕らも予備校を勧めている訳ではないんですが、そういう場にいるとデザイナーになりたいなどというような、同じ目標をもった仲間がいますから、そういう刺激を受けてモチベーションが上がるという効果はあると思っています。
特に就職を意識していれば、大学3年の終わりには社会に出るだけのものを身につけてもらう必要があるわけですから、入学後すぐに専門性の高い授業が待っているわけです。
とにかく入学前の基礎作りはとても大事です。

手羽 「予備校に行くべきかどうか」という質問であれば「1日体験講習でもいいから、経験として行ってみるといいよ」と答えています。前々回語りましたが、今まで学校で1番絵がうまいと思っていたのに自分よりうまい人が地元にいっぱいいる・・という現実を知る意味において。自分がまさにそうでしたから(笑)
それで美術予備校に通うかどうかは別の話で、それで必要だと自分が思ったのであれば通えばいいんじゃないでしょうか。塾と考え方は同じです。ムサビにも美術予備校に通わずに入学してる学生さんがいますし。

推薦入試という考え方

さんぽう 推薦入試についてはどうですか?

手羽 実技力・創造力・表現力を重視している、例えば、油絵学科などでも推薦入試で「絵は苦手かもしれないけれど絵が大好きで、ちゃんと人に何かを伝える手段を持っている人」を入学させています。そういう学生さんもいることで、いろんな作用がおきて、よりいいものが生まれるからです。
ただ、そのバランスが重要なんですね。油絵や日本画はどこの大学も実技力を重要視してる学科だと思うのですが、AO入試なり推薦入試で半分以上合格を出している大学を見かけると、うーん、このままでいいんだろうか・・という不安は正直感じます。受験生も大学も楽な道を選んでないだろうか、と。

米山 どういうタイプの人材でも、根底には制作に向けて誠実な取り組みができる生徒がいいですよね。受験のための真剣さというより、作品制作に向けての真剣さがカギだと思います。

アニメーションやCGの制作に
大切な基礎表現力

米山 いろんな大学がアニメーション系の学科を作って、それは業界を盛り上げていくにはとてもいい環境だと思います。だけど、油画専攻でもアニメーションを表現手段として卒業制作などで発表する学生もいます。アニメーション学科のみがアニメーションを学ぶ手段ではないように感じています。描く力があれば、あとはコンピュータなどのオペレーティングの問題になってきますから、まずはどういう力を身につけるべきかを考えてほしいと思います。そうでないと社会に出てからの活躍の場が変わってきますから。

さんぽう アニメーションと同様にデザイン系専門学校も含め、美大もデジタル表現が主のようになっていますが、大学での必要性はどうですか。

手羽 確かにコンピュータは、時代のニーズであり、表現方法の一方法として必要不可欠です。今の時代のクリエイターには道具として欠かせないでしょう。しかしあくまでも道具ですよ。創造するのはヒトのアタマであり、感性ですから。そこを誤解しちゃいけないんです。3Dと

いう表現方法を考えてみても、そのトレーニングに彫刻は絶対有効だと感じますよ。彫刻学科では「立体」「空間」という考え方を学ぶところであり、実際に彫刻学科からゲーム会社に就職する学生さんもいます。

米山 すべての作品制作はデッサンが基本だとよく聞きます。コンピュータを使うのも、まずは頭の中に制作するもののイメージがなければ何をしていいのかわからなくなってしまうでしょ。そういう能力を鍛えるためにもデッサンは有効なんだと思うんです。

さんぽう 本日は長時間にわたり、美大の本質という、本音を御二方から伺うことができました。こんな本音トークはどこのガイドブックにも載っていないですから貴重なお話でした。このページをクリックした高校生には「目から鱗」的なアドバイスになるはずです。きっとー。またの機会がありましたらぜひこのサイトで大いに話してほしいと思います。
本日はありがとうございました。

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(2008年5月下旬収録、抜粋して掲載)
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